東京消防庁

消防科学セーフティレポート

60号(令和5年)

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1年間の観測地震波を用いた家具転倒防止器具の転倒防止効果に関する検証

地震時の家具類の転倒・落下・移動防止対策について、家具転倒防止器具を使用した対策が講じられており、それらの防止器具について、現在まで東京消防庁では様々な検証よりその有効性を確認してきた。しかし、これらの実験は正弦波や兵庫県南部地震などの特定の地震動により実験したものがほとんどであり、複数回の地震動により生じる防止器具の変化については検証されていない。そこで、東京都内で1年間に観測された地震動や2018年4月に発生した熊本地震等の揺れを振動発生装置で再現することにより、年間を通して不定期に発生する地震動や連続で発生する強い揺れに対しての防止器具の転倒防止効果について解明することを目的として検証を行った。

その結果、防止器具の設置条件や地震動の特性等の条件によっては、地震によりポール式の転倒防止器具の設置状態が変化し、次の地震により防止器具が脱落する恐れがあることがわかった。

火災現場で発生する有害物質の危険性に関する検証(第3報)

国際標準化機構(International Organization for Standardization、以下「ISO」という。)が改訂されたことに伴い、今後、国内のガイドラインに消防隊員用個人用防護装備(以下、「PPE : Personal Protective Equipment」という。)のメンテナンス方法が反映される予定である。

火災現場では、可燃物の燃焼反応等によって発がん性物質が発生することが分かっているが、実際の火災現場で使用された防火衣に付着している発がん性物質の状況や、発がん性物質が付着した防火衣の効果的な除染方法に関して、十分に報告されていないのが現状である。

本研究では、消防隊員の長期的な健康被害を防止することを目的として、火災現場において使用された防火衣に付着した発がん性物質の状況を調査するとともに、消防隊員に安全で綺麗な防火衣を提供するための選択肢の一つとして、防火衣の洗浄方法に着目し、防火衣に付着した発がん性物質の効果的な洗浄方法を検討した。

その結果、火災現場で使用された防火衣には、煤やアントラセン等の発がん性物質が付着していることが確認された。また、発がん性物質に汚染させた防火衣生地片を防火衣に縫い付けて、防火衣用洗濯機、家庭用洗濯機及び手洗い(ブラシ)による除染効果を比較した結果、手洗いより、防火衣用洗濯機及び家庭用洗濯機による洗浄効果が高くなった。また、同種洗浄方法であれば、高い水温または少ない枚数で洗浄した方が、洗浄効果が高くなると考えられる。

火災実験施設の確保に係る具体化方策の提案のための調査

東京消防庁が保有する第9消防方面本部中層訓練棟(平成29年5月(竣工))は、規模・用途ともに一般的な燃焼実験施設に近いが、たんぱく泡消火訓練専用施設として石油系燃料を燃焼させる前提で設計されていることから、木材等の燃焼を伴う躯体の受熱対策及び燃焼による煙の排煙処理については設計に反映されておらず、木材の燃焼による影響は不明である。今後、中層訓練棟を木材の燃焼実験等で活用するため、木材火源における実大燃焼実験により、施設に及ぼす各種影響の許容範囲について調査した。

調査した結果、中層訓練等の電動ダンパー付近の温度がボトルネックであることが分かった。2単位クリブまでは継続燃焼が可能であり、3単位クリブ以上は電動ダンパー付近の温度上昇が限界に達する時間までに消火することに留意しながら燃焼を行う必要がある。

高年齢職員の現場活動能力に関する検証

国家公務員法及び地方公務員法の改正による定年引上げを受け、60歳以上の職員が消防活動に従事することが見越される。一般的に加齢に伴い体力が低下するといわれており、今後、定年引上げに伴い消防職員の体力も低下すると考えられ、体力の面で「高年齢職員が現場で十分に活動できるのか」が課題となる。定年引上げが発生していない状況下において、現在の消防職員は、消防活動に必要な体力を有すると考えられる。消防活動に必要な体力の可視化のため、現在の当庁職員の体力現況の把握が必要である。

現在、当庁では文部科学省の新体力テストを毎年行い、職員の体力を把握しているが、体力の分類上1)、新体力テストのみでは加齢により衰えやすいといわれている体力を把握することはできないため、当該体力を測定するための体力テスト(以下「消防版体力テスト」という。)を5種目考案した。そして、消防版体力テストを消防署員に対して測定を行うことで、消防版体力テストが加齢により衰えやすい体力を適正に評価できるか調査した。また、新体力テストと消防版体力テストの結果により、当庁職員の体力の現況を把握した。

その結果、消防版体力テスト5種目のうち3種目については、加齢により衰えやすい体力を評価できた。また、考案した消防版体力テストと新体力テストの結果により、定年引上げが発生していない状況下で、当庁職員の体力の現況が把握でき、消防活動に必要な体力の可視化を行うことができた。

消防職員の高年齢期における心理に関する検証(第2報)

定年引上げ後のモチベーションの維持や、新たなモチベーション創出の一助とすることを目的として質問紙調査を実施した。定年退職前後において、高年齢期職員の心理面を2年間にわたる追跡調査を行い、仕事へのモチベーションにどのような心理的要因が関連しているのかを分析した。

検証の2年目となる令和4年度は、定年退職前後の高年齢期職員における仕事へのモチベーション変化に関連している要因を明らかにするために、心理尺度間において重回帰分析を実施した。

その結果、定年前の世代間における職員同士の交流といくつかの心理尺度との間に関連が認められ、さらにこれらの心理尺度と仕事へのモチベーションとの間に関連が認められた。この結果から定年前の交流は仕事へのモチベーションにポジティブな影響を与えていると考えられる。また、定年引上げ後もモチベーションを保って勤務を継続するためには、新たな目標や同世代との繋がりの創出等を目的とした取組が効果的であると考えられる。

はしごクレーン救出第1法時におけるはしご等に作用する力に関する検証

はしごクレーン救出第1法は、低所にいる要救助者を救出するために用いられる救助方法であり、要救助者の引き上げ時には、救助ロープ、はしご確保ロープによる張力や石突を足で押さえる力等様々な力が作用している。本検証でははしごクレーン救出第1法時に三連はしごに作用する力を力学的な計算により算出し、はしごクレーン救出第1法を三連はしごを転倒させず安全に運用するためのポイントを確認した。

その結果、はしごクレーン救出第1法は、仮に90°に近い高い起梯角度であっても、石突確保者が確実に確保していなければ転倒する危険性の高い救助方法であり、石突を足で押さえつける重要性を十分理解した上で実施する必要があることが分かった。

ポリタンク内の液体の成分分析について

当庁出張所の充電室内に保管されているポリタンク内の液体(以下「ポリタンク内の液体」という。)を車両用バッテリーに補充したところ、バッテリーに異常をきたす事案が発生した。ポリタンク内の液体は、事案発生時の状況や液体の外観、臭気等から灯油の可能性が考えられたが、明らかとは言えず、今後の再発防止策を検討するうえで科学的な根拠を必要とするため、ポリタンク内の液体に含まれる成分を明らかにすることを目的に成分分析を実施した。

ポリタンク内の液体をガスクロマトグラフ−水素炎イオン化検出器(以下「GC−FID」という。)で分析したところ、対照試料として分析した灯油に類似したクロマトグラムが認められた。このことから、ポリタンク内の液体には灯油が含まれていることが明らかになった。

ロープを引く力の検証

人力によるロープ展張時の展張力を測定するとともに、手すりが支点として使用でき得るか検討することを目的として検証した。

結果として、1人当たりの展張力は自己体重の1.3倍程度になること、3倍力システムで3人で展張すると展張方向によっては800kgf近い展張力となること、手すりはブリッジ線等の支点としては強度が十分ではないことが分かった。

可搬式投光器(LED式)用強化型蓄光型ケーブルの強度検証

投光器ケーブルについて、現行ケーブルより細いケーブルが製品化されたため、各種強度試験を行い、現行ケーブルと同等の強度を有するか検証した。

その結果、すべての試験において終了時に導通に異常が見られなかったこと、また、外皮被覆の損傷は想定される外力より極端に大きな力で発生していることから、新型の投光器ケーブルは現行ケーブルと同等の強度を有していることが分かった。

火災シミュレーション装置を用いた仮設防火対象物の災実験に係る熱流束計の設置位置について

実大実験をするにあたり、火災シミュレーション装置を用いて、仮設防火対象物の火災実験に係る熱流束計の設置位置(10kW/u、3kW/uが熱流束計で計測できる位置)を検討する資料とするため、臨時改良検証を行った。計算結果より火源からの距離が3m未満では、10秒以上10kW/ツ以上となり保護されていない人間の皮膚は、2度の熱傷*1を負い、3m以上4m未満では、4.5kW/u以上となり約30秒以上で保護されていない人間の皮膚は、2度の火傷を負う演算結果となった。また、火源から5.5mほど離れた熱流束計でも3kW/u程度の熱流束が算出された。