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消防科学セーフティレポート

■ 58号(令和3年)
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特別区消防団の新型防火服に関する検証

現行防火服(長靴がカバーにより大腿部まで覆う構造のもの、ズボンは採用されていない)と新型防火服(ISO規格に適合し、ズボンと長靴がセパレートになっているもの)のヒートストレスによる影響や着用感を比較し、新型防火服の仕様や運用する際の注意点等を提言することを目的とした。防火服を着装した消防吏員に暑熱環境下で運動負荷を与え、生理的、主観的指標を評価した。また、消防職員と消防団員が同一の運動を行い、着用感を評価した。その結果、新型防火服は現行防火服よりもヒートストレスによる身体への影響が軽減され、着用感も良好であることが分かった。しかし、ズボンは窮屈であり、サイズ展開や仕様について検討する必要があること、仕様が大きく変更となることから着装訓練を取り入れる必要があることが分かった。

消防隊員の受熱による影響等に関する検証  消防隊員の受熱による生理的、主観的影響を明らかにし、また、検索救助活動時における「温度表示テープ」の有効性を明らかにすることを目的とした。装備品を完全着装した状態で高温環境での運動を行い、生理的、主観的指標を測定した。また、視界の悪い環境での温度表示テープの視認性を評価した。その結果、高温環境で最も熱を感じやすい部位は手部であり、温度表示テープは色で表示するタイプが見やすく、貼り付け部位は自分の目に近づけられる部位が見やすいことが分かった。手部は空気層が薄く、温度感受性が高いことから熱を感じやすかったと考えられ、また、温度表示テープは温度表示の大きさや煙の中でのわずかな距離の差が視認性に影響を与えたと考えられる。個人装備品は改良により耐熱性が高くなっているものの、最も熱を感じやすい部位は手部であること、また、温度表示テープは視界の悪い濃煙環境の中であっても、部位によっては視認可能なため、環境温度を把握する術として有効であると考えられる。
火災室の熱環境の判断に関する検証  本検証は、消防隊が、現場到着時に火災建物外観の様子から火災室の熱環境などを推察するための指標について、調査、実験を行った。
 過去の実大火災実験に関する資料の調査から、火災室の異なる熱環下において、建物開口部からの煙や熱気流の形状及び煙の濃淡にそれぞれ特徴が得られた。この特徴ついて確認するため、新たな実大火災実験を行い、温度、映像等を取得した。
 その結果、建物開口部からの煙の形状及び濃淡から火災室の熱環境が推察できることが確認でき、特にフラッシュオーバーが始まる段階を見分ける指標が得られた。また、熱画像装置を使用することで、火災室の熱環境を推察する一つの判断材料となる可能性があることを示した。さらに、火災シミュレーションソフトを使用し、実大火災実験で使用した区画と取得した温度データを再現した上で、火災室に隣室を付加することで、火災室隣室の熱環境についても検討した。
検索活動時に使用する装備品に関する検証  当庁では、職員の殉職事故及び法令改正等を受けて機能向上を図った新たな装備品の導入が予定されており、検索方法の見直しについても検討されている。また、これらの現状に加えて、消防活動に寄与できると思慮される高機能な資器材が安価で市場に流通している。それら装備品及び資器材の導入効果・影響について、将来を見据え検討しておくことは重要である。
 そこで本検証は、導入予定装備品に加え、導入により検索の安全性及び効率の向上に寄与できると推測される資器材の効果・影響について実験及び調査を通じて確認し、その有用性について検討した。さらに得られた実験結果から、今後の消防活動が要求する装備性能に対し言及した。
火災現場で発生する有害物質の危険性に関する検証 (第1報)  海外において、火災で発生する有害物質に曝される消防隊員は、将来的に健康を害するリスクを有しているとされており、それを低減するための対策が既に講じられている。
 当庁では、火災現場で発生する有害物質の中毒性を中心に検証し、必要な対策を提言した実績があるものの、発がん性の観点から検証した実績は乏しい。
 本検証では主として、発がん性を有する揮発性有機化合物(以下「VOC」という。)であるベンゼン(以下「BZ」という。)発生時の火災環境とBZ濃度の関係等を検証した。また、その実験結果の裏付けをとるため、実際の火災現場における検証も実施した。その結果、火災現場ではVOCが発生し、火点室内や可燃物が高温になるほどBZの発生量が多いことが明らかとなった。その一方で、効果的な除染を行わなければ、防火衣生地の内部には有害物質が長時間残存することがわかった。将来的な健康被害のリスクを低減させるためには、火点室の早期の積極的な排煙や防火衣等の各種装備品に対し、有効な除染が必要であると推定される。
初任学生の熱中症防止方策に関する検証(熱中症予防教育プログラム)  消防学校初任学生の訓練中における熱中症の発症を防ぐため、熱中症予防教育プログラムを構築し、学生の熱中症に対する知識、関心、経験(本検証では「熱中症リテラシー」と呼ぶ)の向上を図り、その効果を把握することを目的とした。        
 本検証では、学生に対してプログラムを実施するとともに、プログラム前後の質問紙調査によりプログラムの効果を評価した。その結果、プログラムにより学生の熱中症リテラシーの向上が認められた。また、学生自身が熱中症対策に主体的に取り組む様子が確認できた。一方で、集団・組織レベルの熱中症対策など、プログラムの効果が十分に得られていない項目が確認できたことから、プログラムを継続的に改善する必要がある。
消防学校学生のストレス対処力に関する検証  若手職員の成長支援方策の一助とすることを目的として、若手職員の中でも1年間の変化の大きい消防学校学生のストレス対処力(以下、「SOC」という。)について3回にわたり質問紙調査を実施した。
 消防学校に入庁してから卒業するまでのSOCを含む各尺度の推移をみるために、分散分析を実施し、各時期における尺度間の因果関係を明らかにするために、重回帰分析を実施した。
 その結果、消防学校にいる間は、心理的な変化はほぼ見られなかったが、環境が仮配属先の消防署に変わると、SOC、基本的信頼感及び対人的信頼感が低下し、バーンアウト及び精神健康度が悪化した。これらを向上させる効果的なサポートは、時期や環境により異なったことから、ストレスに強い人材を育てるためには時期や環境に合った人物が継続的にサポートすることが必要である。
一酸化炭素の区画外への拡散状況に関する検証  本検証では、一酸化炭素発生室のみならず、同一建物内の別室、廊下、階段、別フロアを含む室外での一酸化炭素濃度の変化状況を把握することにより、発生した一酸化炭素が室外へ拡散する状況及びその危険性を明らかにし、防火管理上の安全対策及び一般住宅の事故防止対策に資するとともに、消防活動上の留意事項として役立てていくことを目的とした。
 その結果、一酸化炭素の室外への拡散傾向を確認することができたことに伴い、発動発電機等の屋内使用の危険性や建物内全体における一酸化炭素拡散の危険性、換気の必要性等を明らかにし、防火管理上の安全対策及び一般住宅の事故防止対策、消防活動上の留意事項に資する考察を示すことができた。
観測地震波を用いた車いす使用者の身体防護体勢の検証  地震発生時における受傷を防ぐことは、地震後の円滑な自力避難を可能にし、建物倒壊や火災に伴う死傷者の低減に寄与するため、不可欠である。しかしながら、少なからず行動に制約のある車いす使用者に向けた地震時の身体防護体勢については、具体的に検討されていない。このことから、地震時の行動として、車いす使用者がとるべき「負傷リスクが低く」「身体への負荷が小さい」身体防護体勢の一例を考案することを目的とし検証した。
 人体ダミー及び被験者を用いた振動実験から、上半身を前かがみにし、重心を下げる姿勢等をとることで、地震時の負傷リスク等を大幅に低減できることが明らかとなった。
 また、車いすの揺れの方向の違いに対する基本的な挙動から、前後方向よりも左右方向の揺れの方が倒れやすいことがわかった。なお、本検証は家具類の転倒・落下・移動防止対策が講じられていることを前提として行ったものである。

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