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東京消防庁ライブラリー消防雑学辞典
消防雑学事典
?火災と気象

mark  火災の発生や拡大には、風の強弱や湿度の高低が大いに関わりあることは、過去の火災の歴史を見るまでもなく明らかです。古くは、明暦3(1657)年の明暦の大火(振袖火事)で、カラカラ天気に砂ぼこりが舞い上がるほどの北西風が、大火を招いた原因の一つとされています。

能代市の大火を報じた朝日新聞
能代市の大火を報じた朝日新聞  昭和期の中頃では昭和22(1947)年4月20日の長野県飯田市の大火、昭和27(1952)年4月17日の鳥取県鳥取市の大火、昭和31(1956)年3月20日の秋田県能代市の大火のように、異常乾燥など気象条件の悪化に伴って大火となっています。
 気象条件が悪化すると、各市町村長は火災警報を発令して、火災に対する警戒を呼びかけますが、この火災警報発令の基準の一つとしているものが、湿度と風速です。
 火災の発生と湿度の関係を東京を例にとって見てみますと、昭和51(1976)年中に湿度が50パーセント未満だった日は74日あり、この間に発生した火災は2,824件でした。一方、70パーセント以上だった日は173日あり、2,286件の火災が発生しています。つまり、湿度が高い日は、一日当たり13件の火災が発生しているのに対し、低い日には38件と約3倍に近い火災が発生したことになります。
 次は風です。風が火災に及ぼす影響は、それによって延焼方向が変化するばかりではなく、火の粉が飛ばされ、思わぬ地点から再び火災が発生することにあります。風には風向や風速があり、これらが、火災の時の現場指揮や消火活動に大きな影響を与えます。
 「風向」とは、空気の流れで風の吹いてくる方向をいい、1秒間に風が吹き抜けていく距離をメートルの単位で表したのが「風速」です。風向も風速も観測時の10分間の平均値で表すことになっています。また、平均値でない風速は「瞬間風速」と呼んで区別しています。
 ちなみに、日本で記録された最大風速は、昭和40(1965)年9月10日の台風23号のときに、高知県室戸岬で観測された毎秒69.8メートルです。最大瞬間風速は、昭和41(1966)年9月5日の第二宮古島台風(台風18号)のとき、沖縄の宮古島で観測された毎秒85.3メートルでした。
 話は少し横道にそれますが、天気図に使われている天気記号には、矢羽根型の尾が付いていますが、これは、風向と風力を表すものです。風向は16方位をもって表し、風力は、0から12までの13段階に風速を分類した、ビューフォート風力階級によって表しています。例えば、風力6とは、毎秒10.8から13.8メートル未満の風速を表しています。このように風速と風力はそれぞれ異なるものです。
 火災を拡大させる気象原因に、いま一つフェーン現象があります。
 この「フェーン」という言葉は、もともとヨーロッパのアルプス地方で名付けられたもので「山から吹き降りてくる温かくて乾いた風」という意味です。春先に起きるこの風のため、ヨーロッパのアルプス地方では、山の雪がどんどん溶けていきます。また、日本でも、雪どけ、雪崩、山火事などの災害を引き起こすことがあります。アメリカのロッキー山脈の東側でも発生し、ここでは「チヌーク」と呼ばれています。
 このような「温かくて乾いた風」の特徴をとらえて、以前は「フェーン」を「風炎」と日本語に訳したことがありました。日本で起きるフェーン現象のうち、特に注目されるものは、もうすぐ春というころに、日本海側の地方に起きるものです。
 このころは、日本海に低気圧が発達しやすく、太平洋側からの湿った温かい空気が、日本海側の低気圧めがけて吹き込みます。そしてこの風が、日本列島をつらぬいている山脈を越えて、日本海側に吹き降りる際に、フェーン現象が起こることがあります。
 仮に、温度が15度の湿った空気が、2,000メートル級の山に吹きつけたとしますと、空気は山を上がるにつれて、100メートルにつき約0.5度ずつ温度が下がるため、飽和水蒸気量が低くなることから、空気中にたっぷり含まれていた水蒸気は雪粒や雨粒に変わって、山の途中に雨や雪を降らせ、やがて頂上付近では温度が10度下がり、気温が5度になります。
 山頂まで上昇した空気は、水蒸気をほとんど失って乾いた空気に変わり、今度は山を下ることになります。この乾いた空気の風は、100メートル下るごとに、今度は気温が1度ずつ高くなる性質があります。
 ですから、山の裏側の2,000メートル下のふもとに来るころには、温度は20度高くなり、気温は25度にもなります。
 このように、太平洋からの湿った暖かい風が、山脈を越えて日本海側に達したときには、非常に乾いた暖かい風となって吹き込み、それがときには異常な暑さをもたらすことがあります。こんな気象条件の下では、雪を溶かすばかりでなく、火が出たら山火事や大火を引き起こす要因となります。
 現在日本において、フェーン現象によってもたらされる気温の最高記録は、昭和8(1933)年7月25日、山形で観測された40.8度(湿度26パーセント)です。
 日本列島では冬になると、太平洋側に主に北西の風が吹き、また、春から夏にかけて日本海側に主に南東の風が吹くため、フェーン現象が起こり、火災が発生すると大火になることが多いようです。



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