東京消防庁管内※では過去5年間(各年6月から9月)に、19,017人が熱中症(熱中症疑いを含む)により救急搬送されました。平成29年の熱中症による救急搬送人員は過去5年間で平成28年に続き2番目最も少ない3,167人で、平成28年と比較すると348人(約12%)の増加となりました(図1)。
図1 過去5年間の熱中症による救急搬送人員(各年6月~9月)
月別では、各年ともに7月、8月の発生が多いですが、梅雨時期の6月や残暑の9月にも熱中症による救急搬送がみられます。平成29年は、他の年と比較すると8月は、救急搬送が最も少なかったものの、6月、7月は、多くなっていました(図2)。
図2 月別の熱中症による救急搬送人員
平成29年6月から9月までの熱中症による救急搬送人員と気温の関係を見てみると、熱中症による救急搬送は、梅雨明け後の7月の気温が高くなった日に増加しました(図3)。
平成29年は関東甲信地方では6月7日ごろに梅雨入りし、7月6日ごろに梅雨明けとなりました(気象庁発表)。
※ マークは、6時から18時の間「快晴」または「晴」
図3 熱中症による救急搬送人員と気温(平成29年6月~9月)
救急要請時の気温と救急搬送人員では、28℃台から32℃台では300人以上の人が救急搬送されました(図4)。
図4 気温別の熱中症による救急搬送人員(平成29年6月~9月)
下の図は、平成29年6月から9月末までに熱中症で救急搬送された3,167人の救急要請時の気温と湿度を表したもので、赤い色が濃いほど救急搬送が多くなっています。気温34℃で湿度55%から気温25℃で湿度88%の範囲で、救急搬送人員が多く分布していることが分かります。 また、気温が高くなくても湿度が高いと熱中症で救急搬送されていることが分かります(図5)。
備考)赤色が濃いほど救急搬送人員が多い
図5 救急要請時の気温と湿度(平成29年6月~9月)
時間帯別の救急搬送状況を見ると、12時台が332人と最も多く、次いで11時台が316人でした。特に10時台から17時台は200人以上と多くなっていました(図6)。
図6 時間帯別の救急搬送人員(平成29年6月~9月)
年代別の救急搬送状況を見ると、80歳代が638人と最も多く、次いで70歳代が548人となっていました。人口10万人あたりの救急搬送人員で見ると、80歳代以上になると急激に多くなっており、60歳代以下では10歳代が最も多くなっていました(図7)。
図7 年代別の救急搬送人員(平成29年6月~9月)
年齢区分別の救急搬送状況を見ると、65歳以上の高齢者が1,534人で全体の約半数を占め、そのうち約7割にあたる1,110人が75歳以上の後期高齢者でした(図8)。
図8 年齢区分別の救急搬送人員(平成29年6月~9月)
救急搬送時の初診時程度を見ると、救急搬送された3,167人のうち約4割にあたる1,259人が入院の必要があるとされる中等症以上と診断されています。重症以上は81人で、そのうち17人は生命の危険が切迫しているとされる重篤と診断されています(図9−1、表1)。
また、高齢者(65歳以上)は、半数以上の51.3%が中等症以上と診断され、後期高齢者(75歳以上)に限ると、55.4%が中等症以上と診断されています(図9−2、図9−3、表2、表3)。
図9−1 救急搬送時の初診時程度別の救急搬送人員(平成29年6月~9月)
図9−2 年代別の救急搬送時の初診時程度と中等症以上の割合(平成29年6月~9月)
表1 年代別の救急搬送時の初診時程度と中等症以上の割合(平成29年6月~9月)
年 代 | 軽 症 | 中等症 | 重 症 | 重 篤 | 合 計 | 中等症以上 の割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
9歳以下 | 50人 | 5人 | − | − | 55人 | 9.1% |
10歳代 | 261人 | 84人 | 2人 | − | 347人 | 24.8% |
20歳代 | 206人 | 81人 | 2人 | 1人 | 290人 | 29.0% |
30歳代 | 199人 | 54人 | 3人 | 2人 | 258人 | 22.9% |
40歳代 | 218人 | 80人 | 3人 | 1人 | 302人 | 27.8% |
50歳代 | 150人 | 74人 | 9人 | 4人 | 237人 | 36.7% |
60歳代 | 197人 | 129人 | 12人 | 1人 | 339人 | 41.9% |
70歳代 | 292人 | 241人 | 10人 | 5人 | 548人 | 46.7% |
80歳代 | 287人 | 327人 | 22人 | 2人 | 638人 | 55.0% |
90歳代 | 47人 | 100人 | 1人 | 1人 | 149人 | 68.5% |
100歳以上 | 1人 | 3人 | − | − | 4人 | 75.0% |
合 計 | 1,908人 | 1,178人 | 64人 | 17人 | 3,167人 | 39.8% |
図9−3 年齢区分別の救急搬送時の初診時程度と中等症以上の割合(平成29年6月~9月)
表2 年齢区分別の救急搬送時の初診時程度と中等症以上の割合(平成29年6月~9月)
年齢区分 | 軽 症 | 中等症 | 重 症 | 重 篤 | 合 計 | 中等症以上 の割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
5歳以下 乳幼児 | 18人 | 2人 | − | − | 20人 | 10.0% |
6〜12歳 小学生の年代 | 91人 | 12人 | − | − | 103人 | 11.7% |
13〜15歳 中学生の年代 | 96人 | 30人 | 1人 | − | 127人 | 24.4% |
16〜18歳 高校生の年代 | 85人 | 38人 | 1人 | − | 124人 | 31.5% |
19〜64歳 | 871人 | 354人 | 25人 | 9人 | 1,259人 | 30.8% |
65歳以上 高齢者 | 747人 | 742人 | 37人 | 8人 | 1,534人 | 51.3% |
合 計 | 1,908人 | 1,178人 | 64人 | 17人 | 3,167人 | 39.8% |
表3 高齢者の救急搬送時の初診時程度と中等症以上の割合(平成29年6月~9月)
年 齢 | 軽 症 | 中等症 | 重 症 | 重 篤 | 合 計 | 中等症以上 の割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
65〜74歳 | 252人 | 160人 | 10人 | 2人 | 424人 | 40.6% |
75歳以上 | 495人 | 582人 | 27人 | 6人 | 1,110人 | 55.4% |
合 計 | 747人 | 742人 | 37人 | 8人 | 1,534人 | 51.3% |
救急要請時の発生場所では、住宅等居住場所が1,187人で全体の37.5%を占め最も多く、次いで道路・交通施設が814人で25.7%を占めていました(図10−1)。
また、年齢区分別に発生場所を見ると、乳幼児(0〜5歳)、高齢者(65歳以上)は「住宅等居住場所」が多くを占め、小学生となる6歳〜12歳、中学生となる13歳〜15歳、高校生となる16歳〜18歳は、いずれも「学校・児童施設等」、「公園・遊園地・運動場等」が多く、この2つで全体の約6割から7割を占めていました(図10−2〜10−7)。
図10−1 発生場所別の救急搬送人員(平成29年6月~9月)
図10−3 発生場所別の熱中症による救急搬送人員6歳〜12歳(平成29年6月~9月)
図10−2 発生場所別の熱中症による救急搬送人員0歳〜5歳(平成29年6月~9月)
図10−5 発生場所別の熱中症による救急搬送人員16歳〜18歳(平成29年6月~9月)
図10−4 発生場所別の熱中症による救急搬送人員13歳〜15歳(平成29年6月~9月)
図10−7 発生場所別の熱中症による救急搬送人員65歳以上(平成29年6月~9月)
図10−6 発生場所別の熱中症による救急搬送人員19歳〜64歳(平成29年6月~9月)
過去5年間の年齢区分別の救急搬送人員では、平成28年は前年に比べ、乳幼児の年代にあたる5歳以下は31.0%減少し、13〜15歳は同件数でした。その他の年齢区分は、いずれも増加していました(表4)。
表4 過去5年間の年代別救急搬送人員(各年6月~9月)
年齢区分 | 平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | 前年比 |
---|---|---|---|---|---|---|
5歳以下 | 26人 | 16人 | 22人 | 29人 | 20人 | △31.0% |
6〜12歳 | 138人 | 152人 | 170人 | 95人 | 103人 | 8.4% |
13〜15歳 | 181人 | 162人 | 165人 | 127人 | 127人 | 0% |
16〜18歳 | 166人 | 136人 | 160人 | 93人 | 124人 | 33.3% |
19〜64歳 | 2,195人 | 1,465人 | 1,855人 | 1,084人 | 1,259人 | 16.1% |
65歳以上 | 2,256人 | 1,436人 | 2,330人 | 1,391人 | 1,534人 | 10.3% |
合計 | 4,962人 | 3,367人 | 4,702人 | 2,819人 | 3,167人 | 12.3% |
室内で熱中症になった事例
○ エアコンのない高温の居室内に長時間いたところ、頭痛、ふらつきの症状が出たため、救急要請となったもの。
【平成29年7月 男性(60歳) 熱中症(中等症) 気温31.7℃ 湿度60%】
○ デイサービス職員が傷病者宅を訪問したところ、自宅居室内で倒れており、意識障害の症状が出ていたため、救急要請となったもの。
【平成29年7月 女性(95歳) 熱中症(中等症) 気温29.4℃ 湿度71%】
○ 自宅居室内において、息子が仕事から帰宅した際に、父親がマットレス上に敷かれた布団上で倒れており、いびき様の呼吸をしていたため、救急要請したもの。
【平成29年8月 男性(71歳) 熱中症(重篤) 気温31.4℃ 湿度61%】
◇ 水分補給を計画的、かつ、こまめにしましょう。
◇ 窓を開け風通しを良くしたり、エアコンや扇風機等を活用し、室内温度を調整するなど、熱気を溜めないようにしましょう。
乳幼児が、車の中で熱中症になった事例
○ 車両内に子供を乗せた状態で、母親が車両のカギを車内に残した状態で子供がカギのロックボタンを押したため、ドアが施錠してしまったため救急要請となったもの。
【平成29年7月 男児(1歳) 熱中症疑い(軽症)気温31.3℃ 湿度61%】
◇ 少しの間でも子供を車内に残さないようにしましょう。
◇ 子供が、自分で内鍵をかけたり、車の鍵で遊んでいて誤って、ロックボタンを押してしまい閉じ込められる事故が発生しています。車を降りる際は、鍵を持って降りましょう。
屋外で作業中に熱中症になった事例
○ 9時頃から建設現場で足場の組み立て作業をしていたところ、11時半頃に、嘔吐と全身脱力感を訴えたため、同僚から救急要請となったもの。
【平成29年7月 男性(42歳) 熱中症(中等症) 気温31.5℃ 湿度64%】
○ 庭で作業していた父親の様子を息子が見に行ったところ、庭で倒れているのを発見し、呼び掛けても反応がなかったため救急要請となったもの。
【平成29年7月 男性(90歳) 熱中症(重篤) 気温30.8℃ 湿度67%】
屋外で並んでいて熱中症になった事例
○ 11時頃から、飲食店に並んでいたところ、11時30分頃からめまいと吐気が生じ始め、立っていられなくなったため、一緒にいた友人から救急要請となったもの。
【平成29年8月 女性(16歳) 熱中症(中等症) 気温32.8℃ 湿度58%】
運動中に熱中症になった事例
○ マラソン大会の参加者が10q地点でふらつき、座り込んでしまったところ係員が発見し、呼びかけに反応がなく、その後全身のけいれんもあったため救急要請となったもの。
【平成29年6月 男性(35歳) 熱中症(重症) 気温26.9℃ 湿度45%】
○ 体育館でバレーボールの練習中に頭痛、嘔気、めまい症状を発症したため、救急要請となったもの。
【平成29年7月 女性(17歳) 熱中症(中等症) 気温27.1℃ 湿度78%】
複数の熱中症患者が発生した事例
○ 体育の授業中にシャトルランを実施していたところ、頭痛、めまいの症状を訴えた生徒が複数いたため、救急要請となったもの。
【平成29年6月 14歳の男性1名 女性1名 熱中症(軽症2名) 気温22.2℃ 湿度99%】
○ 高校野球の応援中に複数の生徒が熱中症症状を訴えたため救急要請となったもの。
【平成29年7月 15歳〜17歳の女性4名 熱中症(中等症4名) 気温31.4℃ 湿度70%】
◇ 水分補給を計画的、かつ、こまめにしましょう。
◇ 屋外では帽子を使用しましょう。
◇ 襟元を緩めたり、ゆったりした服を着るなど服装を工夫しましょう。
◇ 指導者等が積極的、計画的に休憩をさせたり、体調の変化を見逃さないようにしましょう。
◇ 実施者は自分自身で体調管理を行い、体調不良の時は無理をせず休憩しましょう。
人間が暑さにさらされ、皮膚に存在する温度センサーが暑さを感知すると、その情報は脳の視床下部にある体温調節中枢に伝えられます。その情報に深部からの温度情報も加えて体温調節中枢が「暑い」と判断すると、皮膚血管や汗腺に命令を出し、皮膚血流量や発汗量を増やします(自律性体温調節)。
高齢者の特徴的な冷房の使い方は、体の冷えを嫌がったり、節電意識を理由として挙げる人もいますが、老化に伴い皮膚の温度センサーの感度が鈍くなり、暑さを感知しにくくなるのも一因です。皮膚の温度センサーが鈍くなると、自律性体温調節の発動も遅れてきます。この行動性と自律性の体温調節の鈍化により、体に熱がたまり、熱中症の発生へと繋がります。このことから、高齢者の部屋に「温湿度計」を置き、周囲の方も協力して、室内温度をこまめにチェックし、暑い日には冷房を積極的に使用して室温をほぼ28℃前後に保つようにしましょう。
体温調節中枢が暑いと判断すると、自律性体温調節として皮膚血流量や発汗量を増加して熱放散を促進します。老化が進むと皮膚血流量と発汗量の増加が遅れ、その後の体温の上昇に伴う増加の程度も小さくなります。そのため、高齢者は若年者より熱放散能力が低く、体に熱がたまりやすくなり、深部体温がより上昇しやすくなります。
暑くなると、皮膚への血流量が増加するため、心臓にもどってくる血液量が減少します。それを補うために心拍数が増加し循環系への負担が大きくなります。このような状態になると、循環器系に基礎疾患がある、または疾患はなくとも機能的に低下している高齢者は、熱中症にかかりやすくなります。このことにも十分留意する必要性があります。
高齢者は若年者より体液量および血液量が少ないことも知られ、この減少も老化に伴う熱放散反応の低下につながります。
参考文献:熱中症環境保健マニュアル2018(環境省)より
暑い日が続くと、体がしだいに暑さに慣れて(暑熱順化)、暑さに強くなります。
暑熱順化は、「やや暑い環境」で「ややきつい」と感じる強度で毎日30分程度の運動(ウォーキングなど)を継続することで獲得できます。暑熱順化は運動開始数日後から起こり、2週間程度で完成するといわれています。そのため、日頃からウォーキングなどで汗をかく習慣を身につけて暑熱順化していれば、夏の暑さにも対抗しやすくなり、熱中症にもかかりにくくなります。汗をかかないような季節の段階から、少し早足でウォーキングし、汗をかく機会を増やしていれば、夏の暑さに負けない体をより早く準備できることになります。
○ ウォーキングなど運動をすることで汗をかく習慣を身に付けるなど、暑さに強い体をつくる。
熱中症の原因の一つが、高温と多湿です。屋外では、強い日差しを避け、屋内では風通しを良くするなど、高温環境に長時間さらされないようにしましょう。
○ 日陰を選んで歩く。
○ 涼しい場所に避難する。
○ 適宜休憩する、頑張らない、無理をしない。
○ 風通しを利用する…玄関に網戸、向き合う窓を開ける。
○ 窓から射し込む日光を遮る …ブラインドやすだれを垂らす、日射遮断フィルムなど。
○ 空調設備を利用する…我慢せずに冷房を入れる、扇風機も利用する。
○ ゆったりした衣服にする。襟元をゆるめて通気する。
○ 日傘や帽子を使う(帽子は時々はずして、汗の蒸発を促しましょう)。
特に高齢者はのどの渇きを感じにくくなるため、早めに水分補給をしましょう。普段の水分補給は、健康管理上からもお茶や水がよいでしょう。水分補給目的のアルコールは尿の量を増やし体内の水分を排出してしまうため逆効果です。
なお、持病がある方や水分摂取を制限されている方は、夏場の水分補給等について必ず医師に相談しましょう。
○ こまめに水分補給・のどが渇く前に水分補給。
○ 1日あたり1.2ℓの水分補給・起床時、入浴前後に水分を補給。
学校での体育祭の練習、部活動や試合中などの集団スポーツ中に熱中症が発生していることから、実施する人はもちろんのこと、特に指導者等は熱中症について理解して、計画的な休憩や水分補給など、熱中症を予防するための配慮をしましょう。
汗などで失われた水分や塩分をできるだけ早く補給するためには、水だけでなく、スポーツドリンクなどを同時に摂取するのもよいでしょう。
また、試合の応援や観戦などでも熱中症が発生していることから、自分は体を動かしていないからと言って注意を怠らないでください。
○ 環境条件を把握しておきましょう。
○ 状況に応じた水分補給を行いましょう。
○ 暑さに徐々に慣れる。
○ 個人の条件や体調を考慮する。
○ 服装に気をつける。
夜更かし、深酒、食事を抜くなど不規則な生活により体調不良な状態では、熱中症になる恐れがあります。
○ 規則正しい生活と十分な食事をする。
車内の温度は短時間で高温になります。少しの間でも、子供を車内に残さないようにしましょう。
○ 子供を車内に、絶対残さない。
一般的に地面に近いほど、地面からの輻射熱は高くなります。子供は大人に比べて身長が低いため、大人よりも、地面から受ける輻射熱は高温となります。
○ 子供は大人の想像以上に輻射熱等を受けていると考えましょう。
○ 子供の体調の変化に注意しましょう。
※ 参考文献:熱中症環境保健マニュアル2018(環境省)
※1 東京都のうち稲城市と島しょ地区を除きます。
※2 気温、最高気温、平均気温、湿度、天気は気象庁の気象統計情報の東京で測定した数値等を使用しています。